第21章 幸せな刻
第三者目線
次の日。
前の日とは比較にならない怪我人が運ばれて来ていた。
「なお様。すいません。あちらもお願いします」
「わかりました。もう大丈夫ですからね」
救護のための天幕はあっという間に埋まっていって、外にも人が溢れている。
「なお。俺も出る事になった。三成は残るから…何かあったら三成に言って…」
家康が駆け寄って来て、いつもと違う緊迫した声。
「…わかった。気をつけてね」
私はそっとその手を繋ぐと、力を込める。
「…じゃ、行ってくる」
手がそっと離れて、駆けていく家康の後ろ姿を追う。
「なお様」
呼び掛けられた声に我にかえると、返事をして治療を始めた。
……………………………………………
今日は戻って来た信長様と逢えず、治療を続けていた。
一人一人の傷に手を当てて、声をかけていく。
『こんな事しか出来ないけど…』
私は痛みに唸る人がいなくなったのをみて、天幕から出る。
「なお…貴様はまた…」
背後から暖かさが私を包む。
吐息が首筋を撫でて、嬉しさががこみ上げる。
「信長様…」
回された腕に頬ずりする様に顔を寄せ、暖かさに目を閉じる。
「無理するなと…言ったであろう」
口調は厳しいのに、暖かさのある声にホッと一つ溜息をつく。
知らないうちに緊張で身体が強張っていた。
信長様は私の手をとると、無言で歩き出す。
私の天幕へと歩を進めて、中に入るとぎゅっと抱き締めてくれた。
「暫しこのまま…」
信長様はそう言うと、抱きしめる腕に力が入る。
身体に少しの隙間もあって欲しくなくて…その隙間を埋める様に私もそっと手をまわす。
「…このまま、くっついてしまえばいいのに…」
そしたら、不安もなくなる様な気がして、ついと口から言葉がもれる。
「ふっ。貴様の考える事は面白いな…。だがくっついてしまうとこの様な事は出来ぬぞ」
私の顎を捉えた信長様の手が、なぞる様に唇を這っていき、その後を追う様にキスが降ってくる。
甘い、切ない痺れが背筋を這い、甘い吐息がもれる。
その声を合図に、キスが深度を増す。
吐息を奪うかな様に舌が吸いとられ、信長様の舌が歯列や内膜を緩やかになぞっていく。
お互いの想いを一つにするかの様に、唾液が混じり合いそれを互いに貪りあう。
唇が離れると互いを繋ぐ糸に離れがたさを感じた。