第21章 幸せな刻
なお目線
家康を呼んだ声が響いてから、次々と怪我人が運ばれてくる。
「ちょっと染みるけど、これ位ならすぐに痛みが引くはずだから、頑張ってくださいね」
私は出来るだけ笑顔でみんなに接した。
「なお様…ありがとうございます。すぐに治して戦さ場へ戻ります!」
そう言われると…複雑な気分になるけれど、そんな事も考えられたのは一瞬で…夕方まで怪我人の手当てに追われた。
「ふぅ…」
ひと段落ついて溜息をつく。
「なお…お疲れ様…。最初にしては良くやったんじゃない」
「足手まといじゃなかった?」
私は家康に訊ねた。
「手当ても早いし、的確だと思うよ。何よりあんたの気の抜けた顔見て…安心するんだってさ」
「気の抜けたって…まぁ、足手まといじゃないならいい」
もう反論する気力も残ってなかった。
「夕餉が出来てるから…皆のところに行くよ…信長様も待ってる」
「本当?!」
【信長様】のひと言に気持ちが浮上する。
私は溜息をついてる家康を引っ張るように、皆の元に向かった。
……………………………………
「信長様!」
私はその姿を見つけて駆け寄る。
「あっ…」
「くくっ。なお。焦らずとも俺は逃げんぞ」
小さな石につまづいてこけそうになった私を、信長様が抱きとめてくれる。
「…ごめんなさい」
「謝ることはない…俺は嬉しいぞ」
穏やかな笑顔で私を見つめてくれる。
「お屋形様…」
後ろから声がして振り向くと、皆が見つめていて恥ずかしくなって、離れると。
「離れずともよい」
そのまま、手を繋いで信長様の隣に座らされた。
簡単な夕餉が始まって、信長様はみんなの報告を聞きながら食べ進める。
「家康。なおはどうであった」
みんなの報告が終わった頃、信長様は家康に言った。
「…充分戦力として働いてくれました」
その言葉に、嬉しくなる。
「そうか!なおすごいな!家康がそう言うってことは、大した働きだ」
秀兄が私の頭をポンポンと叩いて嬉しそうに言ってくれる。
「なお。良くやった」
信長様も微笑んで言ってくれて…嬉しかった。
『ここに来て、初めて役に立てた気がする。良かった』
私は心の中がじんわりと暖かくなるのを感じていた。