第20章 信じる
なお目線
それからは、本当に忙しかった。
午前中は家康に薬の事を教えてもらったり、逆に応急処置を教えてあげたり…。
午後は子ども達の面倒を見たり…秋野に乗馬の手ほどきを受けたり…。
「本当に…疲れた〜」
はしたないとは思いつつも、部屋の中で寝転がる。
あれから、朝餉には逢えるけど…信長様も忙しくて、まともに話もしてない。
「逢いたいなぁ〜」
目を瞑って信長様の顔を思い出す。
「誰にだ」
「へっ?」
降って湧いた声に、目を開ける。
「誰に逢いたいんだ。なお」
「信長様!」
私は身体を起こしてその声の主、信長様に抱きついた。
「貴方に逢いたかった」
そう言ってぎゅっと抱きしめる。
「ふっ。本当に貴様は…」
顎を掴まれ上をむかされる。
そっと、キス…。
『嬉しい…』
そのキスに身を委ねる。
「なお…」
そして、ゆっくりと抱き締めてくれる。
「今日はお仕事終わりですか?」
「あぁ、終わらせてきた。少し時間がある。城下に行くか?」
「本当に!?」
「くくっ。そんなに嬉しいか?」
「はい!」
元気よく返事をし過ぎて、何だか子どもっぽいと思ってしまう。
「ふっ。行くぞ」
信長様は私の手を引いて外へと出た。
……………………………………
「信長様…」
帰り道。
もう少しで離れなきゃならないかな?って思うと、少し淋しくなる。
「どうした?」
信長様がそっと頭を撫でてくれる。
「…少し淋しくなっただけです」
小さく呟く。
「こんな事言っちゃダメですね。ごめんなさい。
私、いつの間にこんなにワガママになっちゃったんだろう」
私は笑って信長様を見る。
「ふっ。貴様のワガママなど俺に比べれば可愛いものだ」
「信長様はワガママなんですか?」
私はびっくりして尋ねる。
「あぁ。貴様に逢いたいと秀吉に駄々をこねた」
「へっ?」
私は益々びっくりする。
「まさか…お仕事終わってないんですか?」
「あぁ…秀吉に押し付けてきた。後が恐ろしいがな。くくっ」
悪戯っ子の様に信長様が笑う。
「ふふっ。私も一緒に怒られますよ」
私もつられて笑った。
「今日は…夜も貴様を離すつもりはない…」
急にいつもの顔に戻った信長様にドキンと胸が高鳴る。
「はい」
一言で精一杯だった。