第20章 信じる
なお目線
夕餉を久しぶりに二人で食べて、他愛のないおしゃべりをする。
湯浴みを一緒にと言う信長様を何とか説得して、一人で入るとそのまま天主へと足を向けた。
先に入っていた信長様は、天主の張り出しでお酒を飲んでいる。
「信長様…」
声をかけると黙って手招きされる。
夏の盛りを過ぎたのか、涼しい風が頬を撫でていく。
「貴様も飲むか?」
「やめておきます」
「何故だ?」
「酔って忘れると勿体無いし、もう1000人の天使のバスケットは聞きたくないから…」
私は笑って言った。
「てんし?ばすけっと?」
信長様の頭にクエスチョンマークが浮かんでる。
「天使とは天女の様な天の使いです。バスケットは、蹴鞠の様なものを使った遊びのことです」
納得した様なしてない様な表情の信長様に、話を続ける。
「私の生きてた時代にこんな詩があるんです」
『朝、鈍い日が照ってて
風がある。
千の天使が
バスケットボールする。』
「二日酔いも何だか綺麗なものに感じるでしょう?でも、ボンボンとボールが跳ねる音はとてもうるさいし…だから、今日はやめておきますね」
私はふふっと笑った。
「千もの人がそんな事をしたら、大変な事になるな。それは確かに聞きたくない…」
信長様も笑ってくれる。
「なお…戦が始まる」
信長様は笑みを消し私を見つめる。
「本当に…ついてきてくれるか?」
「ついていきますよ。信長様が嫌だって言ったって、ついていきます」
信長様の不安げな表情を消したくて、私はすぐに答えた。
信長様は私の肩にそっと手をかける。
私はその手に逆らわず、信長様の肩口に寄りかかった。
「貴様を城に置いておく事。連れて行く事。どちらが良いのか俺には分からん。
分からんなら、俺のしたい様にする。そうは思うが…貴様がイヤと言うことはしたくない」
優しい声が降ってくる。
「信長様…私は何度も命を捨てようとしました。でも、今は生きていたい。信長様の元で…ずっと生きていたい。
だから、ついていきます。生きる為に…」
「貴様は…俺がお前を生かしたいと思った。
だが、そのお前に俺は生かされてる様だな。
俺も…貴様のそばで生きていよう」
そっと上げた顔に…キスが降ってきて…私の身体が宙に浮く。
「今日は…朝まで離さぬ」