第18章 ずっとそばに…
なお目線
お風呂から出ると夕餉の用意が出来たと声がかかる。
「なお、秋野。疲れは取れたか?」
秀兄が入ってきた私と秋野を席に案内してくれた。
私は秀兄と家康の間に、秋野は信長様の隣に…。
少しチクンと胸が痛む。
『私…何を考えて…自分から手を離したのに…無理だった分かってたじゃない』
「なおどうした?疲れたか?」
秀兄は心配そうな顔で私を見る。
「…違うでしょ」
私にしか聞こえない声で、家康が呟く。
また、チクンと胸に痛みが走る。
「何だ?家康」
「…何も」
『だめ、折角の旅行なのに…』
私は下を向けていた顔を上げ、何とか笑顔を見せる。
「少し疲れたかな。お湯も気持ち良くて浸かり過ぎたみたい」
「そうか、ならいい。さぁ、食べろ。政宗の料理も美味いがここの料理も美味しいぞ」
わたしの頭を撫で、にっこりと笑ってくれた。
「うん!」
私は短く返事をして、お膳に手をつけた。
…………………………………………
程々にお酒も飲んで、少し熱くなった身体を冷やしたくて、私はお縁へと出た。
「…今日も満月だ」
空には綺麗な満月が浮かんでいる。
何だか見てると切なくて…でも、その柔らかな光を見続けていた。
「貴様は、満月が似合うな」
その声に、身体が震える。
「…信長様」
信長様が近づいてきて、気がつくと腕の中にいた。
「貴様はよく泣く…。一人で泣くな」
その声に、私は頬が濡れていた事に気づく。
「…ごめんなさい」
「謝らずともよい。泣くなら俺の腕の中で泣けと言っておるのだ」
優しい声が響く。
「…もう、甘えられません」
「何故だ。俺は貴様を離すつもりはない」
「…信長様を、私は苦しめるだけの存在です。今なら…今なら、諦められるから…」
そう言った途端、私の身体が宙に浮く。
「信長様?」
私の問いかけに無言で歩き出す。
顔を上げると
悲しそうな
怒っているような
複雑な表情の信長様が居て
緋色の眼はその色を濃くしていた。
その表情、その眼に囚われていると
一つの部屋の前に足を止めた。
私を抱えたまま襖を開け、中に入る。
私は、褥の上に優しい手つきで、そっと降ろされた。
その手つきとはうらはらの、有無を言わさぬ声が降ってくる。
「今宵…貴様の心も身体も俺が奪う」