第17章 傷
なお目線
「信長様…」
「なおか…入れ」
信長様の声に私は天主に続く襖をゆっくりと開ける。
文机に向かい書簡に目を落としながら、手招きをされる。
「お邪魔ではないですか?」
そっと隣に座る。
「そこではない…」
腰に手が回り、軽々と持ち上げられると、信長様の膝の上に横抱きにされる。
「あっ…あの…」
書簡から目を離さずに、信長様はふわりと笑う。
「貴様が嫌ならやめるが…」
「いや…ではないです。けど…」
「けどなんだ」
「 信長様。少しお話をしたくて、聞いてくれますか?」
『きちんと言っておかなきゃいけない。
私の変えられない過去を』
「何をだ」
「私の…過去の話です」
「それを俺が聞いて、何が変わる」
信長様の眼が鋭く光る。
「信長様と恋仲になるという事は、お世継ぎを…」
「そんなもの、まだ必要ない」
「でも…私…汚れてるから…私じゃダメな気がして…。
それに、受け入れられるか…わかりません」
ぽたぽたと涙が落ち、身体が震える。
「何故そんな事を言う。そこを含めて貴様を愛してると申したはずだ」
信長様は私を抱き締める。
「何があったかを聞いた所で、貴様への想いは変わらん。
俺を受け入れられるまで、いくらでも待つ。それじゃいかんのか」
信長様は私を優しい顔で見つめてくれる。
『でも、それとこれとは別…』
私はここにくるまでに考えた事を、信長様に伝える。
「私は…側室でもいい。そばにいれたら…」
私の言葉は途中で信長様のキスで塞がれる。
「…んんっ…ふぅっ…」
昨日の様なキスではなく、舌を絡ませられ強く吸われる。
息が苦しくなって、頭の中が真っ白になる。
唇が離れ、苦しさに息を吸い込む。
「なお…」
信長様の瞳がいつもより紅く、陽炎の様に熱を持ち揺れている。
「側室などと…その様な事2度と言うな…」
信長様は私を抱き締める。
「でも…私は…」
「俺は貴様以外…要らぬ」
その言葉に、涙が落ちる。
「私…ごめんなさい。信長様を試す様な事…。でも、不安で…こんなに幸せな事…いつか…壊れそうで…私、私…」
私は信長様の胸元に顔を埋め、暫く泣き続けた。
「なお。貴様が話したいなら止めぬ。聞こう」