第17章 傷
なお目線
私が6才になる前、小学校に入学を控えてうきうきした気分で、毎日買ってもらったランドセルを背負って、リビングをうろうろしていた。
ママもパパも優しくて、その日も帰ってくるパパを待って、大好きなハンバーグを一緒に食べる予定だった。
けどそれは、一本の電話で全て壊れていった。
その後の事は、幼さからか…ショックからか曖昧で。
でも、大好きなパパがもういなくなった事は、逢えなくなった事は、理解していた様に思う。
家はあったから良かったけれど、ママは看護師として仕事に復帰し、夜勤で家を開けることもあった。
夜の一軒家は、とても静かで少しの物音に怯える夜もあった。
それでも、ママが帰って来たら、何度も何度も抱き締めてくれて、『大好きよ』と囁いてくれたから、ママを哀しませない様に、必死で笑っていた。
それが変わったのは、10才の時。
ママは、男の人を連れて家に帰って来た。
仕事場の同僚だという男の人は、立派なスーツに身を包み、私にぬいぐるみを渡しながら『よろしくね』と微笑んだ。
その微笑みに、パパの面影を感じた。
きっとママもそこに惹かれたのだと思う。
私も、少しずつその男を受け入れていった。
一年が経った頃。
会いに来ていただけの男は、家に住む様になった。
それから暫くして、二人は籍だけを入れて結婚した。
ママは夜勤を辞めて家に居てくれる様になり、とても嬉しかった。
でも…その日から少しづつママの顔が曇っていき、私の大好きな笑顔を見る事もなくなった。
その理由を知ったのは…ママがいなくなってからだった。
それでも、パパになった男は、私には変わらず優しかった。
13才になった時、学校から帰るとママは私に『パパに内緒で明日から旅行に行くよ』と告げた。
『後でパパにも知らせて、びっくりさせたいから…』
ママのその言葉を私は疑いもしなかった。
何よりも、『絶対に内緒ね』と久し振りのとっておきの微笑みで言われて、それがとても嬉しくて、パパに話したいのを必死で堪えた事を、今でも覚えてる。
パパが仕事に出掛けてから、二人で電車に乗った。
行き先は【京都】
何故京都なのか?分からないけれど、二人きりでの旅行は本当に楽しかった。
そして…【本能寺跡】についた。
それからの記憶は私にはない。
ママがいなくなり、私だけが…残った。