第16章 両想い
第三者目線
「お屋形様…」
なおの部屋を出て天主へと戻る信長の後を、秀吉は追っていた。
「何用だ」
天主に着くと信長は天主の高欄に出て、欄干に腰を下ろす。
何用と聞かれると、何と聞いていいかわからず、秀吉は息を詰める。
暫しの沈黙が流れた。
「お屋形様はなおを…なおを如何様になさるおつもりですか?」
「如何様にもするつもりはない」
信長の発言に息を飲む。
そのままの意味でない事は分かっていても、秀吉はその言葉の真意を図りかねていた。
「…彼奴は、そのうち500年後に帰るかもしれん。それを分かっていても、止められなかった。側にいるうちは大事にしたい…それだけだ…」
「ですが!なおは帰っても…」
「突然現れたのだ…突然いなくなってもおかしくはなかろう」
信長の発言に、秀吉は冷や水を浴びせられた様に、心が冷えていくのが分かった。
『本人が望まなければその様な事はないと…漠然と思っていた…だが…』
秀吉はそこまで思い至らなかった自分に唖然とすると共に、そこまで考えながらなおを慕った信長の愛をおもい知る。
「…お屋形様は…それでよろしいのですか」
聞いても詮無い事だと思いながらも、秀吉は言わずにはいられなかった。
「この乱世…思い通りにならぬ事などいくらでもあろう…。なおがいなくなったとて、大望の為突きすすむのみだ。500年後に彼奴が幸せに暮らせる様にな…」
そう言った信長の顔は、秀吉が今まで見たこともない哀しみと慈愛に満ちていた。
それ以上、秀吉は何も聞くことが出来なかった。
「話は終いだ。朝餉に行くぞ。本日よりなおの席は俺の隣だ」
信長は今までの話などなかった様に、いつもの顔に戻りにやりと笑った。
「はっ!」
秀吉は一つ返事をすると、歩き始めた信長の背後をついていく。
『なおがここにいなくなろうとも、俺はこの方についていく。その大望を実現させる為…何よりもなおの幸せを願うこの方を支え続ける。…そして、今の二人の幸せを守る」
秀吉は心の中でそう決意を固め、その大きく揺るがない背中を見つめた。