第16章 両想い
なお目線
着物を着て、泣き腫らした目を隠すため、薄化粧をする。
「なお様…いつにも増してお綺麗です」
秋野は優しい眼差しで私を見つめる。
「ありがと…」
「秋野…昨日の事なんだけど…」
私は秋野に向き合うと、佐助兄と会った時の話を正直に話した。
それが、佐助兄にとって良い事ではないことは、わかってるけれど秋野に隠し事はしたくなかった。
「でね…」
信長様の話をしようとすると、頰が勝手に紅くなる。
「どんな化粧よりも、恋する乙女の顔には敵いませんね」
「えっ。あの…」
私は益々顔が紅くなる。
「なお様が信長様をお慕いしているのは、分かっていましたよ。でも、ご自分で気付かなければ…ね」
秋野は私をそっと抱き締める。
「なお様。今、幸せですか?」
秋野の問いに、私はこくこくと首を縦に振る。
「昨日の事…夢かなって思うくらい…夢じゃないよね」
上から秋野のクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「夢じゃないですよ。秋野はこの目でしっかり見ましたから」
「もう!秋野…」
私は顔を上げて膨れて見せる。
「良かった…」
そこには、嬉しそうに笑う秋野の顔があった。
「秋野…ありがとう。秋野がそばにいてくれたから、助けてくれたから、私は生きてて…幸せを掴めたよ」
私は改めてお礼を言った。
「なお様…そんな嬉しいお言葉。こちらこそありがとうございます」
秋野が頭を下げる。
「秋野…やめて。ねっ。頭を下げられるより、抱き締めてくれる方が嬉しい」
私は秋野を抱き締めると、秋野もそっと抱き締め返してくれる。
「このままだと、また泣きそうだから…朝餉に行こうか?」
私は涙を堪えて微笑んだ。
「はい。では、髪をとかして参りましょう」
同じ様な顔をした秋野も微笑み返してくれる。
「なお様の母代わりにしてくれてありがとうございます。秋野も幸せです」
「私も秋野の娘にしてくれてありがとう」
髪をとかしてくれながら、鏡越しに微笑み合う。
「信長様の寵妃となると、色々な事があるやもしれません。ですが…秋野はどんな時でもそばにおりますから…」
「はい。私も離れませんから…」
そう言うと、二人で笑いあった。
「では、参りましょう。皆様に揶揄われますね」
「うっ。頑張ります」
また、笑い合い広間へと向かった。