第15章 それぞれの想い
なお目線
あの男が…目の前に迫る。
逃げようと思っても、脚がもつれすぐに捕まってしまう。
『いや。もういや』
そう思った時、ふわっと身体が浮いて、優しい声が聞こえてくる。
『大丈夫だ。何も怖いことはない』
あの男が遠くなる。
ぬくもりが益々深まって…私はゆるゆると覚醒した。
「…あっ。だれ?」
目を開けると見慣れた羽織が目にうつる。
「すまぬ。起こしてしまったか…」
「信長様?」
私はゆっくりと顔をあげた。
「あっ」
私は信長様の眼に捉えられる。
『優しい眼』
「信長様」
私は確かめる様に名前を呼ぶと、いつもと違うドキドキを隠したくて、でも離れたくなくて、信長様の胸に顔をうずめた。
「なお…」
信長様が名前を呼んでくれた。
『いつも、貴様とか姫なのに…』
それがまた嬉しくて、心地よかった。
信長様の腕に力が入って、ぬくもりが身体中に広がっていく。
「…なお。すまぬ」
突然の謝罪に、私は顔を上げる。
『何で…そんな顔してるの』
今までに見たことない切ない表情に胸がキュッと締め付けられる。
「何故、謝るんですか?」
私はその顔を変えたくて、手をそっと信長様の頰に寄せた。
「つっ…」
信長様の綺麗な緋色の瞳が揺らいだ。切なさが消えた表情に少しほっとする。
私の手に添えられた信長様の手。
嬉しさが込み上げてくる。
『私、やっぱり…信長様が好き』
そう感じていた。
「なお。貴様が…なおが好きだ。愛してる」
突然の言葉に息がつまる。
言葉では表せない程の嬉しさが胸に溢れ、
心が
身体が
熱くなる。
それなのに、信長様の眼が不安げに揺れていた。
『何でそんな…』
苦しそうな表情をやめない信長様の眼を顔を、自分に向けて欲しくて、名前を呼んだ。
「信長様…」
ゆっくりと目線が合う。
『私も…伝えたい』
想いが溢れる。
「私…私も、信長様が好きです。」