第15章 それぞれの想い
第三者目線
信長は広間を後にし、なおの部屋を訪れていた。
秋野をも拒絶したなおを想うと、いつもの様に部屋に入ることが出来ず、部屋の前に暫し佇んでいた。
「…っ。いや…いやぁ〜…」
襖の奥から叫び声が聞こえた瞬間。
信長の身体は躊躇いもなく動いた。
「なお!」
褥の中にいるなおの元へ駆け寄る。
「あ…いやぁ…」
まだ小さく呻き声を上げるなおをそっと抱き締める。
「大丈夫だ。何も怖いことはない」
なおの背を、頭をそっと撫でる。
涙が信長の着物を濡らすが、そんな事も厭わず信長はなおをしっかりと腕の中に抱き締める。
「…あっ。だれ?」
なおはそのぬくもりに、ゆるゆると覚醒していく。
「すまぬ。起こしてしまったか…」
「信長様?」
ゆっくりと緩められる手に合わせる様に、なおは上を向いた。
「あっ」
そこには、今までに見た事のない優しげな瞳があった。
ドクンと心臓が音を立てるけれど
それは今までの様に早鐘のようではなく
心地よいリズムで胸を打ち
締め付ける様な痛みだった今までとは違う
芯を溶かす様な緩やかな痛みが甘く広がる。
「信長様」
なおは確かめる様にその名を呼ぶと、そっとその胸に顔を埋めた。
「なお…」
その行動に信長は信じられないものを見る様に眼を見張る。
だが、次の瞬間には愛おしさが胸を占め、またなおの身体を壊れ物でも扱うかの様に抱き締めた。
「…なお。すまぬ」
信長のその言葉に、なおは真意を知ろうと顔を上げる。
先程と違う、信長の切ない表情がそこにはあった。
「何故、謝るんですか?」
なおはゆるゆると右手を上げると、そっと信長の顔を手を当てる。
「つっ…」
信長の緋色の瞳が揺れ、頰に寄せたなおの手に自らの手をそっと合わせる。
「なお。貴様が…なおが好きだ。愛してる」
言ってしまった言葉に、早くも後悔の念が押し寄せる。
弱っている時に言う言葉ではない事は分かっていた。
ましてや、諦めようと思っていた。
だが、その衝動を抑える事が出来なかった。
「信長様…」
なおの呼ぶ声に意識を戻す。
「私…」