第15章 それぞれの想い
第三者目線
「…覚えてるさ」
政宗は家康の真剣な眼差しに、真剣に応えた。
「あの時、あれだけの怪我で済んだのは、身体に力が入ってなかったからです」
家康の言葉に政宗はその時を思い出す。
「確かにそう言ってたな」
「…普通は身に危険を感じると、よっぽどの手練れでない限り身体に力が入る。力が入れば、衝撃は強くなる。
なおの普段の様子を見ていても、決してその様な鍛錬をしていた様には思えない」
家康は皆を見渡すと話を続ける。
「…全てを諦めて、このままどうなってもいいと想う気持ちがあったから…身体に力なんて入らなかった。…死のうとした事が、なおの命を救ったんですよ。皮肉な事にね」
その言葉に政宗と秀吉は息を詰める。
「…あの時、なおは……笑っていたんだ」
秀吉はその微笑みを今でも思い出す事ができる。
服は煤に汚れ
髪は千々に乱れ
身体には血が流れ
薄汚れた頬は涙に濡れ
肢体を無防備に投げだし
その顔には微笑みがあった。
「…覚えてる。何かを、全てを諦めたあの微笑み」
政宗は顔を苦痛に歪め、握った拳に力が入る。
「そこからなおは笑顔を取り戻したのに…」
家康の言葉に、武将達は、この頃のなおの様子を思い出す。
誰にふれられても怯えなくなり、それどころか可愛い笑顔を見せてくれる。
時には童の様に幼さを見せるかと思えば、少女の様な可愛げを見せ、そして年相応の妖艶さを見せる。
儚げであったかと思えば強さを感じ、また強いと思えば儚さを見せる。
その全てが、武将達の心を揺さぶる。
なおが誰を慕い、その相手もまたなおを慕っている事が分かっている今、なおを我が物にしようとは誰もが思わない。
ただ。
『なおの笑顔を守りたい』
その想いだけは、全ての武将達の願いだった。
「俺はもうあんなのはごめんだ」
政宗が吐き捨てる様に呟く。
「なおの心はお屋形様に任せる他ない。俺たちには俺たちで出来ることをしよう」
秀吉は決意を新たに、武将達に指示を出す。
そして、それぞれの場所に戻っていった。