第15章 それぞれの想い
なお目線
どこをどう走ったのか分からないけど、気がつくと私は部屋にいた。
途中で誰にも逢わなかったのだろうか?
私の様子を見て変に思う人はいなかったか?
色々考えはするけれど、その考えは霧の中で何かを掴むかのように纏まらない。
「なお様」
外から声がかかる。
いつもならある返事がない事に、秋野は襖を開けようとする。
「秋野。来ないで…」
私は咄嗟にそう言った。
外で秋野が息を飲むのが分かる。
今迄秋野を拒絶した事はないから…。
「ごめんなさい。今日は夕餉はいらない。さっきお団子食べ過ぎちゃったから…。少し疲れたからもう寝てもいい?」
出来るだけ平静を装って声をかける。
「わかりました。では、明朝起こしに参りますね」
秋野の声から動揺は聞いてとれないけど、哀しい顔をしているのは分かった。
『ごめんなさい』
私は心の中で謝る。
「おやすみなさい。なお様」
最後にそう声をかけてくれて、秋野が立ち去る音が聞こえた。
私は部屋の奥に歩いて行くと、褥を整えその中に潜り込む。
はらはらと落ちてくる涙が、褥を濡らして行く。
「佐助兄…何で…」
口ではそう言っても、佐助兄を拒絶した自分にショックを受けていた。
『同じじゃない…でも、怖かった』
あの瞬間、佐助兄は私の知ってる佐助兄ではなかった
けど、あの男とも違うのも分かっていた
ただ
同じ感覚を探した時
あの恐怖に行き当たってしまった
「佐助兄…ごめんなさい…」
拒絶してしまった事に佐助兄は気付いている
暫く逢いには来てくれないだろう
そして
私も今は逢えない。
「信長様…」
恋なのか分からないと思った。
けど、恐怖に触れそうになった瞬間。
浮かんだのは信長様の顔だった。
『私は佐助兄を拒絶して、信長様を求めた』
その事も、逢えない理由となった。
頭も心も色々な気持ちで千々に乱れる。
『…今は眠ろう』
私はまだ流れる涙をそのままに
そっと
眼を閉じた。