第14章 恋心
佐助目線
「おい。良かったのか?」
幸はなおの姿を目で追いながら、俺に尋ねる。
「今は…何を言っても…行こう。俺の用も済んだ」
そう告げると長屋を出る。
「いいのか?」
幸のその問いに答えぬまま、俺は歩き出す。
『最後のあの顔は…』
あんな顔させるつもりはなかったのに
頬を染め他の誰かを想うなおを
誰かになど渡したくない気持ちが溢れた。
「暫く逢えないし、敵になれば益々…」
「幸。ありがとう。どのみち暫く逢えない」
『怯えさせてしまったから…』
その言葉は口にする事が出来なかった。
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「おや?姫は連れてこなかったのかい?」
茶屋で待ち合わせた相手は、満面の笑みで迎えてくれた。
「おぉ…何かな…」
幸は言い淀む。
「良いのかい?佐助」
「今は…」
それ以上は口に出せない。
「佐助にも姫を上手に扱う方法を教えてあげなきゃならないな」
「信玄様は上手じゃなくて、手当たり次第って言うんだろ」
幸はそう言って信玄様を睨みつける。
「幸。酷いぞ。」
そう言いながらも幸の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「やめろよ」
幸が逃げ回る。
「俺は戻ります。上司が怖いので」
そう言うと2人を置いて歩き出す。
「戦の準備を始めると謙信に…」
信玄様は俺の背中に声をかけた。
「はい」
一度振り向き一礼すると、俺はまた歩き出した。
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「謙信様」
俺はこの時代で上司になった男に声をかける。
「1人か?」
振り返らずにそう問いかけられる。
「はい」
返事をした瞬間、刃が俺を襲う。
「連れて来いと言ったはずだ…」
息も切らさず喋りながら、次々と刃が向かってくる。
黙って避け続けていると
「謙信様、そこまでに…」
襖が開らき声が聞こえた。
「ふん。佐助。沙耶に助けられたな」
そう言いながら謙信様はやっと刀をしまってくれた。
「沙耶様。申し訳ありません。なお様を連れてこれませんでした」
俺は頭を下げた。
「なおは元気でしたか?」
優しい微笑みを浮かべている。
「はい」
「それが聞けただけでも、私は嬉しいから…」
沙耶様はまだ怒っている謙信様にそう告げた。
「…逢いたいだろうに…」
謙信様の言葉に、俺の胸は痛んだ。