第2章 「今宵の『アリス』が君だったんだ」
__えっと、はじめまし…て?
言おうとした。いや、『言えなかった』。声が出ないからだ。
喉が特別乾いているわけでもない。身体に異変を感じる訳じゃない。
それなのに何度声を出そうとしても口からは息だけしか出てこない。
すると、少し嬉しそうに男の人はにこりと笑った。
「僕の声を理解してくれたのは嬉しいけれど、ゴメンね。今の間は君は声を出せないようにしているんだ。」
彼は私の頭触れ、撫でた。
「その代わり、僕は君が声に出そうとしている事は全てわかるんだ。だから声を出さなくても言おうとする努力さえしてもらえばそれで充分だよ。」
__話してほしい。今日の事、教えて。ここは何処なの。
声には出せなかった。だけれど、彼は理解したようでポットを机に置くと口を開いた。
「いいよ。僕の声が聞こえる、大切なお客様だからね。」