第2章 「今宵の『アリス』が君だったんだ」
目が覚めると暑くもなく寒くもなく快適な温度とふかふかな布団が待っていた。
と言っても別に羽織ってるわけじゃなくて布団の上に私が眠っていた。
部屋は奇妙な感じの部屋だった。全ての物が曲線になっていて、角がない不思議な世界。
しかもそれは綺麗な曲線かと言われればそうではなくて、ぐにゃぐにゃで落ち着かない部屋。
天井はベッドに座っている私よりも少し上にあって立ってギリギリぐらいの位置にある。
私にとってこの部屋は合わないな、と即座に悟った。
部屋は1部屋しかないようで、ただ一つドアがぽつんとあった。
ドアには『1856回扉を叩かないで。』と英語で書置きがあった。1856回の意味はわからないけれど、誰が好きでそんなに叩くものか。
壁には二つ時計がかかっていた。かなり歪で針の進むスピード、そして時計の時間全てが違った。今の時刻を知る事はできないようだ。
ベッドの近くにある形が歪なテーブルにはティーポットとカップが置いてあった。ポットの中身をカップに注いでみるともう冷め切ったミルクティーらしきものが出てきた。
少し飲んでみた。美味しくはなさそうだがまさか毒が入れてあるワケじゃないだろう。
………レモンティーの味がした。
その時だった。一つだけしかないドアが、開いた。
「やぁ、初めましてだね!」
首から古いカメラをさげた男の人が部屋に入ってきた。と言ってもかなり小柄な方で立っていてもかなり天井からは余裕がある。
あの時の男の人とは違い、茶髪の物腰の柔らかそうな人だった。
丸眼鏡をかけた人で、白い手袋をはめた手にはティーポットを持っていた。