第17章 いちのいのち (医者パロ)
あの銀髪の担当医に見つかればおしまいだ。見つからない事を祈りながら、ガラガラと点滴を引きずり屋上へ向かう。
幸い彼には出会わず、看護師もせわしなく忙しく行き交い、挨拶はすれど引き留められはしなかった。
誰も乗っていないエレベーターを出ると、誰もいない屋上に辿り着く。
目も覚めるような晴れ間の中真っ白なタオルが干されていて、は少しほっと息をついた。
ゆっくりと歩み寄り、飛び降りを防ぐ為の高い高いフェンスに手をつく。
米粒の半分にも満たない程小さくなった人間は、やはりせわしなく動いていた。
いのち、いのち、いのち。そこら中にいのちは溢れている。
排気ガスもここまでは届かない。一瞬だけ、自分が一人空から地上を見下ろしているような気分になった。
空気を吸い込もうとして、胸に痛みを感じた。
あの医者が言う事は恐ろしく当たる。何も無理はしていないはずなのに、動悸が少し早まっていた。
息苦しい。
気にしない気にしない。
空気をゆっくりとゆっくりと、たくさん吸って、たくさん吐く。そうするだけで、体内の毒気が抜けていく気がした。
病なんか関係ない。
病院で白い生活を送る日々。死期が近いわけではないけれど、遠いわけでもない。
それはよほど生温く、じれったく感じて。
生きるか死ぬか、どちらかに決めて欲しくて。
でも死を恐れながら生きるのには勇気が要って。
死を選ぼうとした事もあった。たくさんあった。涙も流した。たくさん流した。
それでも私は、まだ、生きている。