第9章 嫉妬している、と言えばいいのか
何なの、と口を開きかけたを無視して、バージルは彼女が手に持つ筆ペンのうち1本を取る。
それをずいっと男に差し出した。
「この店にある中ではこれが一番細い」
「あ、そうですか? ありがとうございます」
バージルに驚きつつも、親切だと思った男は素直に礼を言って受け取った。
ぺこりとお辞儀をしてきたので、も一応軽く礼を返す。
そして十分遠ざかった後。
「何なの」
言うと、バージルはペンを眺めながら一言。
「いらん会話はするな」
「いらんて事はないでしょう。お客様が聞いてきたのよ?」
「レジで大人しくしていれば話しかけられる事もなかった」
「わからないじゃない。レジまで来て聞いてきたかも。ていうかその発言営業妨害よ?」
「無駄な動きをするな。不愉快だ」
そこまで言われて、さすがのもむっとした。
バージルは不意に歩き出してから離れる。
思わず追いかけて気付いた。ここは他の店員から見えない場所。
わかってて来たんだろうと思いながら小声で言い返す。
「そこまで言われる筋合いはないと思うけど。私は仕事をしたまでよ? なんで怒られなきゃならないの。バージルおかしいよ今日」
すると黙り込むバージル。
商品を幾つか手に取り比べながら、まるで考え込むような沈黙。
はあまりにバージルが大人しくなったので、少し言いすぎたかと心配になった。
思えば確かに無駄な動きもしたかもしれない。並び直すのもぼんやりやっていたし、そう言われても無理はなかったのかも。
不安になってきてバージルの顔を少し覗き込む。
端正な顔からは表情は読み取れず、それにますます不安になったが。