第4章 チョコレートの渡し方
バレンタインの日。
は、目の前の物を見つめていた。
目の前には小さな袋に入ったチョコレート。
テーブルの上にちょこんと置かれ、に睨まれている。
―――違うのよ。
は一人胸中で呟いた。
―――別にバージルに作ったんじゃなくて。
友達にあげてたら偶然ひとつ余っちゃったのよ。
そう、偶然。
偶然だ。
だが果たしてこれを自分が食べていいものかと、は悩んでいるのだった。
一般的なバレンタインのイメージは、女が男にチョコレートをあげるというもの。
バージルは今仕事で出かけているが、間もなく帰って来る。
バージルには今まで、いろいろと迷惑をかけてきたし世話にもなってきた。
やはりここは、お礼も兼ねてあげるべきなのだろう。
「でもなぁ…」
渡した時の反応が、は嫌だった。
きっと驚かれる。
驚いてを見つめて、「お前にもイベントに参加する心があったのか」とか言われて、それから「なぜ俺に渡す?」と理由を聞かれて…
普通に「余ったからあげる」と言えばいいのだろうか。
しかしそれでは、まるでいらないものをあげているようでは嫌だった。
だからといって「いつも世話になってるから」とは恥ずかしくて言えず…
「あああ…どうしよう…」
ちらりと時計を見る。
そろそろ帰ってくる時間だ。
静かな室内で一人ソファに座り、ひとつだけ余ったチョコレートを指でつつく。
かさりと音を立てて揺れた袋をはぼうっと見つめた。