第35章 数
「…後悔してるの?」
人間である事を。
人間ではない事を。
悪魔である事を。
悪魔ではない事を。
「……いや」
バージルはの髪を撫で下ろす。
するりするりと。
「楽しんでいる」
「そう」
ぎゅっとしがみつく。
何を考えているのだろう。彼女には、何が見えているのだろう。
「口付けは、心の証明…」
ぽつりと呟く。
反芻して、身体に染み渡らせるように。
「違うか?」
尋ねると、はわずかに首を振った。
「素敵」
それに目を見張り、バージルに薄く笑顔がこぼれる。の身体をそっと離した。
愛しそうに親指で唇を撫で、瞳を見つめ。
「ならよかった」
ささやく。
「……でも、好きってそんな簡単に伝えるものでもないと思うのよね…。少なくとも私は、気軽に100回言われるより、大事に1回言ってもらう方が好き」
は不意に、少し不機嫌そうな顔になった。
バージルは少し考える。
なるほど、確かにあれだけ頻繁に口付けをしたのでは、「好き」という価値が薄れてしまうのかもしれない。
本当はあれでも足りないくらいなのだが、素直に伝えるというのも一長一短だ。
難しいものだな。
「悪かった」
素直に謝ると、は満足そうに笑った。
バージルの首に腕を回す。
「わかればいいのよ」
「だが、こちらもプライドがあるからな」
「今までの男に負けたくないって?」
「わかっているのなら聞くな」
「負けず嫌いのバージルらしいね。そう思う事自体、自分が負けてるって感じてる証なんじゃないの?」
「……確かに」
に諭されてしまうとは。
全く、の事になると考えがうまく働かない。