第35章 数
それからバージルは、事あるごとに唇を重ねてきた。
今は本気でも、そのうち飽きてくるだろう、とそう考えていたは甘かったようで、着々と回数を増やしている。
会う度に。
食事の度に。
バージルが本を取る度に。
視線が合う度に。
軽く触れるものから深いものまで。おはようからお休みまで。
最初は我慢していただったが、いい加減うんざりしてきた。
隣に座って本を読むバージルに、言う。
「トラウマになったらどうしてくれるの」
「克服するくらい物凄い口付けをしてやる」
「絶対嫌だから」
「嫌がるのを押さえるのもいいな」
末期だ。バージルは何かにとり憑かれているのだ。
そう思ってしまうほどの執念だった。
大体口付けに何の意味があるというのだろう。そこからしてには疑問だ。
ただ唇が重なるだけではないか。
唇が重なって、舌が絡まって、暴れるように舐められて。
いつかは離れる。
後には息苦しさが残るだけ。
何の為に。何の意味が。何で。
わからない。
「何で、口付けなんてするのかな…」
気付けば口に出していた。ぼんやりと、遠くを見るような目をして。
自分の声で我に帰るが、口に出した事は取り消せない。
大人しく答えを待つ。
バージルはを見た。
彼女の横顔を眺め、頬を撫でて。
考える。
「……それは、何故好きなのかと言われるようなものだな」
「理由なんてないって?」
「厳密には違うか」
バージルはの肩を抱き寄せる。
また口付けが来るかと思い身構えたは、予測と違う温かさに少し戸惑った。
そして、大人しく身体を預ける。
心地いい温かさに瞳を閉じた。