第35章 数
黙ったのを見てとり、息と共に顔を離す。
至近距離での瞳を覗き込むと、低い声で言った。
「お前が今までにした口付けの数など、俺が3ヶ月…いや、1ヶ月で越えてやる」
「え…そんなにいらない…」
「拒否権はない」
「何でよっ!」
「俺の気が済まないからだ」
怒ったような顔に睨まれて、は口を噤んだ。少し距離を取ったバージルを、うらめしそうに見遣る。
「回数は、1000回行っているのか?」
「…多分。気にしてなかったんだけど、概算では2000回は超えております」
「随分したな」
「だから仕方ないでしょ。恋人同士ってそういうものでしょ」
「2000では不安だな……。では、3000回もすれば確実というわけだ。とすると、一日当たりの回数は?」
「………」
嫌な予感。
本当にするのだろうか。冗談でしょう?
本気なのかどうかとバージルを見つめていると、不意に彼はにやりと笑った。
次の瞬間、触れ合う程近くに。
女かと思うほどの綺麗な肌。決意をたたえた水面の瞳。縁取る銀色の睫毛。
単純に綺麗だなと思う。
思っていると、唇が触れ合うのだ。
触れて離れる唇。バージルは満足そうに、不敵に笑った。
「これで4回目。あと2996回だ」
そういえば彼は嫉妬深い上負けず嫌いでもあるのだった。
あぁ、本気なんだなと。
諦めにも似た思いが、に走る。