第34章 波紋
「話がある」
バージルは唐突に切り出した。
の心臓が跳ねる。
―――話…
視線をそらしたかった。
バージルは深刻そうな表情をしていて、嫌な予感が的中しそうだった。動悸が一気に大きくなり、体がくらくらと揺れているようだ。
しかし一度交わった視線ははずす事は許されず、は眉を寄せる。
嫌だ。
何も言わないで。
自分勝手なのはわかってるけど。
お願い。
バージルはそんなの様子を見つめながら、一言。
「温泉旅行に行かないか」
そう言った。
「―――へ……」
一瞬真っ白になる頭の中。
何。
今何て言った?
「お…おんせ……?」
「あぁ」
相変わらず難しい顔のバージル。
何。何でそんな顔してるの。もしかして温泉ていう名の別れ話?
何が何だかわからずに狼狽する。
そんな彼女の様子を見て、バージルは更に眉をひそめた。
「なぜそんな拍子抜けした顔をする」
「え……や、」
「別れ話だとでも思ったか?」
「っ!?」
図星か。
そう言うようにバージルはため息をつき、ようやく視線を外した。
「の事は大体わかっていると自負している。最近つまらなくてたまらないだろう? だから息抜きにと、温泉に誘ってみた」
みた、って……。
嘘。私の気持ちに気付いてたわけ?
なら何で…
「どうせ行くなら良い所がいいだろう。そう思って有名な旅館を予約したんだが、値段が高くてな。バイトをして貯めていた」
―――バイト……いつ?
不思議に思ったが、不意に愕然とした。
ばっと顔を上げる。
上から下まで眺め回す。