第34章 波紋
「――――…」
声がした。
「―――、……」
大好きな声。
呼んでもらうと、笑顔がこぼれる声。
頬にするりと何かが触れる感触。
温かい。
「………」
不意にはっきりと聞こえたその声。は瞼をゆるゆると開ける。
「、起きろ。風邪をひく」
ぺちぺち。
頬を軽く叩かれる。
「ん……え… っ!!」
次の瞬間、は飛び起きた。
いつの間にか眠っていたらしく、はソファに横たわっていた。
そしてそれに覆いかぶさるようにしてバージルが覗き込んできている。
目の前にバージルの顔。
こんなな近くで見たのは久しぶり。
驚いて身体を固くするに苦笑すると、バージルは身体を起こした。
窓の外は暗い。どれくらい眠っていたのだろう。
「うたた寝をするなど、らしくないな?」
そう言いながら、バージルはの隣に腰を下ろす。
は彼の体をを避けるように起き上がり、一番離れた隅っこに座り直した。
「ちょっと眠くなっただけ。………お帰り」
一応、言う。
しかし声の調子は決して優しくない。私、どうしてこんな声しか出なくなっちゃったんだろう。いつから。
眠る前の事を思い出したは、しまったと思った。
嫌な顔をされただろうか。
思わず見る。
「……ただいま」
バージルは、少しだけ嬉しそうにして返してくれた。
それに胸が締め付けられ。思わず泣きそうになって、ぷいと顔を戻す。
「どうした?」
それを敏感に感じ取ったバージルが尋ねてきた。
見ているからだ。私のことをいつも見ているから、変化がわかって、異変がわかって、心配してくれる。
なのに私は。
「別に」
こんな返事しか出てこない口に嫌気がさす。
膝をかかえて顔をうずめたが、少しだけ傾けてバージルの顔を見つめた。
そう、彼はこんなにも整った顔立ちをしていた。
神様は不公平だと思わざるを得ないほどの端正な作り。
バージルは、見られているのをわかっていて視線をそらさない。