第34章 波紋
「………何?」
ぽつりと残された。
いつもと同じはずなのに、なぜか孤独感。
―――何、今の。話があるって?
バージルの言葉を頭の中で繰り返す。
帰ったら話があると。そう言っていた。
―――話? 何の? 何で?
理由になりそうな記憶を必死にたどる。
しかしその記憶はすべて白黒で写されたように現実味がなく、は戸惑った。
雑誌を放り投げる。
読んでる場合じゃない。
なぜか、不安と焦りと恐怖がを駆り立てた。
理由が思い当たらない、それが怖い。
当たり前も当たり前になったにとって、変化は最大の恐怖であり最高に渇望していたものだった。それなのに。
必死に頭を回転させる。
どうして、こうも思い出に色がついていないのだろう。
思い出に色がついてないんじゃない。
私の目が、色を認識しなくなったの?
私、何かしたっけ?
何か言った?
普通に返事したよね?
変な事言わなかったよね?
言い方が気に入らなかった?
冷たい返事しかしない私が嫌になって、呆れられた?
だから何も言わずに出ていった?
話って―――別れ、話?
思って、身体が震えた。
嘘。やだ。
そうだったら、嫌だ。
そう思う自分に、もう一人の自分が冷静に語りかける。
やだって、当たり前でしょう?
ろくに話さないし、話してもつっけんどんな返事しかしないし。
最後にバージルの顔をちゃんと見たのはいつ?
ちゃんと話したのはいつ?
嫌になって、嫌われて、当たり前なんじゃないの。
その声を振り払うように、は耳を押さえてうずくまった。
大丈夫。
私は何もしてない。
大丈夫。
大丈夫―――だよね?
震える心。
何だか嫌な予感しかしなくて、はぎゅっと目を閉じた。
―――バージル…
もしかしたらいなくなってしまうかもしれない。
そうなると、途端に愛しくなって。
会いたくなって。
せめて顔を思い出そうとしたが、よく思い出せなかった。
もうあんたら終わりなんだよ。
誰かにそう言われた気がした。