第34章 波紋
気付けば、バージルはまだ同じところで突っ立っているようだった。足音も物音もしない。
彼に背を向けているので何をしているのかはわからない。
―――何してんだろ。
まあ、いい。変わらないなら変わらなくていい。
ヘンに変わるなら、今のまま変わらないで。
は考え事を拭い去るように雑誌のページをめくる。
「書店でしょ? 行ってきたら?」
まただ。また、「別に気にしてない」って言い方が口から出る。
バージルの視線がぴりっと震える。
本当はいて欲しいけど。
「寂しいから側にいて」なんて、ずっとバージルといた私にはダサく思えて言えない。
何も言わずに行って。
私が何か言う前に。
言ってしまう前に。
そう思いながら耳を澄ませる。
雑誌を見ようとするが頭に入らず、視線が同じところを何度も往復した。
「………」
バージルは、何も言わずに歩き出す。
そう、それでいい。いつもと同じ。
だが、ドアの前でぴたりと止まると。
「帰ったら話がある」
少し苛立たしげな口調でそう言った。
波紋が生まれたような変化。
は思わず顔を上げるが、バージルは振り返らずに出て行った。