第33章 一枚の幸せ
バージルはいつも格好良くて、いつも守ってくれて、凄く強くて。なのに触れ合う事にはまだまだ戸惑いを隠せず、自分からは滅多に触れず。
時折から触れると、嬉しいくせに恥ずかしくて離れる。
―――こういうところ可愛いよねぇ…
母性本能をくすぐられるような感覚。
いつも弄ばれているので、新鮮な気持ちになる。
すると。
「すみませーん」
背後から、二人に話しかける声が聞こえた。
反射的にバージルが先に振り向き、に身体を寄せる。
何か起こった時にを守れる自然な位置。
無意識の行動だろうが、はいつもそれに嬉しさを感じていた。
「何だ」
わずかに警戒しながら、一言バージルが言う。
相手はカメラやらファイルやら手にしていて、何かの取材でもしているかのようだった。
「今、雑誌の特集でカップルを撮影させて頂いてるんです。素敵なカップルだなぁと思って…、数枚撮らせて頂けないでしょうか?」
「……」
カップル、という言葉にバージルがたじろぐ。
その横でが差し出された名刺に目を通せば、10代、20代の女性であれば誰もが知っているような有名な雑誌会社だった。
その名に目を見張る。
「どうですか? お願いできませんか?」
そう言われ、バージルがを見た。何も言わないが、バージルがこういう事は嫌がる事くらいは知っている。
だが、これは滅多にない機会だ。うまくすれば、雑誌にバージルと二人で載れる。
それも彼は嫌がるだろうが、思い出を作りたい女子心が勝ってしまって。
は迷わず言った。
「いいですよ」
「!」
「ありがとうございます。では少しこちらに寄っていただいて…」
「はい」