第33章 一枚の幸せ
空は快晴。
気温は暖かく、春のような陽気。
バージルはいつものコートとベストではなく、シャツにパンツというラフな格好。
しかしそのシンプルさが逆に彼の魅力を引き出し、道行く人々を魅了していた。
歩きながら、は誇らしげな気持ちになる。
バージルは人目を気にして手を繋ぐのを嫌がるので、できるだけくっついて、できるだけ楽しそうに話して。
これが私の彼なのだと見せつけ、同時に自分もバージルに魅せられる。
―――やっぱり格好いいなぁ…
陽の光を浴びて輝く銀髪を、はまぶしそうに見つめた。
前を見据える整った横顔はとても澄んだ雰囲気を醸し出していて、見つめる事すら躊躇われる。
それでも見つめたが最後視線をはずす事など許されず、ほうっと息をつくと。
それに気付いたのか、正面を向いていた瞳がすっとこちらを向いた。
「…何だ?」
わずかに顔をこちらに向ける。
その仕草にさえ見惚れる。
「ううん。カッコイイなぁって思ってね」
正直にそう言うと、バージルは顔をしかめた。
「ここで言う事でもないだろう」
「そう?」
また視線を戻すバージル。
突き放したような言い方だが、嫌がってはいない事をは知っていた。
今まで人に関わらず悪魔とばかり対峙していたのだ。
バージルは素直に誉められるのに慣れていなかった。
顔を見上げると、視線が揺れているのがわかる。は笑った。
「何を笑っている」
「バージル照れてる」
「照れてなどいない」
だが、決して目を合わせようとしないのだ。
間違いなく照れている。