第32章 Nightmare (逆ハーバージル落)
「…!」
「やぁっ!! は…っ」
突然身体が動く。弾かれたように飛び起きる。
一瞬ここがどこなのかわからなくて、は辺りを見回した。
汗が服に染み込み、肌に張り付いた感触。
心臓は夢の中と同じように警報を鳴らし、瞳は恐怖におののいて。
身体は震え、息は荒く、手は強く握りしめて白い。
ただ違うのは、魔物の一匹も居ないことと、優しい月明かりがある事、視界に二人の人物がいる事だった。
次第に落ち着く息とともに気付く。
ここは夢の中じゃない。
夢から覚めたのか…
今までの恐怖を全て忘れるように、は長い長い息をついた。
「…大丈夫か?」
一人が口を開く。ダンテだ。
気付けば彼は心配そうな顔でを見つめていて、の横にいるバージルでさえ、心配そうに彼女の手を握っていた。
しかしはまだ早鐘を打つ鼓動を落ち着かせるのに必死で、それに答えられない。
「随分うなされていた…。うめき声がするとダンテが言うから、悪いとは思ったが入らせてもらったのだ」
説明のような、言い訳のようなバージルの言葉。
その言葉も遠く、の脳裏には、自分の腕に喰らいついていた悪魔の姿がちらついていた。
痛みも感じなかったのに、いつの間に。
あの圧迫感。殺意の顔貌。光る粘膜。はぞっとして身体を掻き抱く。
目覚めた時には暑かった身体が、まるで夜風のように冷えてきていた。
「…夢か?」
恐る恐る聞いてくるバージル。
はそれにようやく頷く。
「最近、…毎日見るの…。悪魔に襲われる夢」
「毎日!? 何で言わねーんだよ」
「……たまたまかも…明日は見ないかもしれないし…。
こんな事で心配かけたくなくて」