第32章 Nightmare (逆ハーバージル落)
暗闇。
一面を覆う暗闇の真ん中に、は立っていた。
またこの夢だと、は諦めたような息を吐く。
そして恐怖。これから起こる事は、身に染みてわかっていた。
そろそろ来る。
来なくていいのに。
手に汗がにじむ。
拳をぎゅっと握ると、それが冷や汗なのだとわかった。
心臓が警報を鳴らすように力強く鼓動を打つ。唇を噛み締めていても、痛みは全く感じない。
正面を見つめた瞳は次第に濃くなる恐怖に染まり。
怖い。
怖い。
早く目覚めて。
これは夢なんだから。
―――…ォ…ン
来た。
にかかる重力が、一気に増した。
上に人がもう一人乗っているような感覚。それは次第に重さを増し、容赦なくを押さえつける。
は短く呼吸をした。
重さに懸命に耐える。
それに負ければ、最悪の事態になることはわかっていた。
だって、ほら。
もうすぐ向こうから。
……ォォ…ァ………
大量の悪魔が。
………ォァア……ォ…ン
初めは地平線のような、遥かな遥かな地の果てだった。とても広い所に、一人でぽつんといるだけだった。
その地平線が太く、濃く広がり、異変に気付いて。雲だったかと思えば、たくさんの粒が集まったものだとわかり、その粒は悪魔だとわかり。
「ぅ……く…っ」
は懸命に身体に力を込めた。
正面からだけではない、四方八方からこの悪魔の雲は近付いてくる。
最近毎日見るこの夢。
一体何なの?
「……っ!」
重力はを押し潰そうと上からのしかかり、は前屈みになりながらも負けまいと歯をくいしばる。
しかし震えた膝が限界を叫び、近づいた悪魔がの死を吼え。
あの悪魔たちは皆自分を狙っているのだと、無数の粒を見た瞬間からわかっていた。
理由はない。
しかし他に何の為に現れるというのだろうか。
ここにはしかいないのに。
どれだけ力を振り絞っても、全く身体は動かなかった。
それどころか指一本動かせず、まるで体中が石になったかのようだ。顔も動かせない。は必死に、自分の手に視線を向ける。
そこには。
「……やっ」
既に無数の悪魔がを捕らえて。
「いやぁああっ!!」
の体中に喰いついていた。