第31章 Treat&Treat (逆ハー)
瞳を見つめるうち、バージルの顔が近づく。これはまずい。
彼は口づける時、何も言わずに顔をゆっくりと近づける。
まるで、すると決めているのに確かめて来るように。捕らえながらも逃げる隙を与えるように。
瞳をじっと見つめ、唇が触れるまで目を閉じない。
唇に口づけられようとしているのを気配で感じ取って、そこは怪我していないと言いかけて。
その時、バージルの唇が少し触れた。恥ずかしい、痺れるようだ、逃げられない。悪魔には魔力が潜んでいるのだろうか。
もう間に合わないと、目をぎゅっとつぶった時。
ガン
「…っ」
小気味いい音が響いて、バージルの顔が沈んだ。
の肩に額でもたれかかるような形になり、は慌ててバージルを支える。
見ると、彼の近くにドラム缶が。大きくはないが、小さくもない。これがぶつかったのだろうか。
どこから―――
「あー悪い悪い。手が滑った」
苛ついたダンテの声。
明らかに故意だと、にもわかった。音からしてかなり勢い良くぶつかっている。痛そうだ。
の肩に顔をうずめたバージルの額には、青筋が立っていた。
手に力がこもる。
「貴様…」
「からさっさと離れろよ。可哀想だろ」
「………」
バージルは黙り込むと、少し横に顔を動かした。
の首筋に擦り寄るように密着し、にやりと笑う。
「! ひぁっ…」
ぺろりと舌先で舐めると、がびくついた。
構わずに、今度は唇を押し付け、吸う。
「んぅ……やめっ、ちょ」
「バージル! てめぇ止めろ!」
ダンテが飛んで来て、バージルに殴りかかった。バージルはそれを余裕でかわす。
首元の熱が離れ、は急いで吸われた部分を押さえた。あぁ、もう、顔が熱い。
「ふん。がらくたの片付けは終わったのか」
「それどころじゃねえだろ! 離せよ!」
ダンテがの後ろに回り、を掴んでバージルから引き離そうとする。