第2章 いってらっしゃい。 [幸村精市]
「じゃあね、精市」
「ああ、いってらっしゃい」
これが見送るがわの気持ちなんだな。
君は俺が手術を受ける時もいつもの笑顔でいってらっしゃいと言ってくれたよね。そして目覚めた時にはおかえりと言ってくれた。だから君が目覚めたら俺は笑顔でおかえりって言うから。
何時間くらいたっただろうか。
手術室の光は消え、中から担当医が出てきた。
ほのかの両親と俺はすぐに立ち上がり
担当医に駆け寄る。
「手術は順調に進んでいたのですが…」
まって。手術は成功したんだよな?
そういってくれ。
「急に異常が起きてしまい……」
異常?
「脳死状態に…。」
目の前が真っ白になった。
叫び声が聞こえる。きっとほのかの母の声だろう。
何が起こったのかよくわからない。
ほのかが?脳死?
死?
1週間後
君が脳死した現実が受け止めきれずなかなか来れなかった病院。でも覚悟を決めて病室のドアを開ける。
息をしているというのか息をさせられているというのか。わからない。
君と大きな機械が繋がれていて
なんでおかえりと、言わせてくれないの。
ねえ、医者になって人の役に立つんじゃないの?
俺がいつ倒れてもいいようにって…
「言ったじゃないか…」
もう返事も帰ってこない君に返事を求めてみても。何も帰ってこない。
「精市くん…」
ほのかのご両親が僕の目の前に立っていた。優しい顔つきは君にそっくりだね。
「今まで、ありがとうね。
あの子ったらずっと精市くんの役にたちたいって病気の人の役に立ちたいって言って医者になるために頑張って勉強してたのよ。」
困ったように微笑んだほのかのお母さん。
「だからね、臓器提供しようと思ってるの。」
「え?」
病気や事故で臓器が機能しなくなった人に、臓器を提供するってことだよな…。
「人の役に立ちたいって言ってたあの子にぴったりだと思わない?
ほのかの人生は終わってしまったかもしれないけど、ほかのだれかの人生の役に立てるんだから。」
「そうですね。」
そうだ。君はいなくなってしまうかもしれないけど。君の夢は叶えることが出来るね。誰かの役に立つという夢。