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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で



そこに居たのは年若い娘だった。
長く伸ばされた髪は珍しくもない茶の色で、顔は暗くてよく分からないが、何故かハイデスには輝いて見えた。

「何せ、言葉が通じないようで……私らも困ってしまって。」

「言葉が、通じない?」

彼女を良く見ると、少し怯えているように見えた。
可哀想に……怯えさせる様なことを言ったのか。
いや、言葉が本当に通じないならば、怯える原因はそれか……。

「御嬢さん……家の者が怖がらせたのなら代わりに私が詫びよう。……せめて、その顔を見せて欲しい。」

言葉が通じないとしても気持ちが伝わってくれれば構わないとなるべく優しく、手を差し伸べた。
その手に彼女のものが触れる事はなかったが、代わりにゆっくりと俯いていた顔がハイデスを向く。

驚く程に白い肌と、透き通る栗色の瞳、睫毛は深い影を落とし、どこかあどけなささえ残るが、品のある面持ち。
緩くカールのかかった髪がさらさらと流れ落ちた。

綺麗だ。

ハイデスは素直にそう感じた。
派手派手しさを身に纏う貴族の女達には無い、優しい品を持ち合わせた女性だった。
良く見ると着ている服もかなり高価だ。
貴族の娘でもなければこのようなドレスを身に付けることは不可能……ましてやイブニングドレスでも無い。

恐らく、歳は二十歳前後。迷子になる歳でも無い筈だ。
だとすれば、何か事情があるのかもしれない、困っている乙女をこのまま放っておくなどクロヴィスの名が落ちる。
そんな言い訳を頭の隅に並べるとすぐに後ろの使用人に向かい直った。

「、……どこかの御令嬢かもしれない。今日はもう遅い、とにかくうちに泊まってもらうしかないだろう。」

「よ、良いのですか?」

「構わん。私が良いと言ったのだから、それに我が家の前にいらしたのなら、私が責任を持つのが道理であろう。お前はスチュワートにこの事を伝えてこい。」

切れのいい返事と共に駆けていく男の背中を見届け、また彼女に向き直る。

「君の意見を聞かず話を進めてしまってすまないね……。でも女性一人、夜の街は危ない。私の屋敷へ案内させて欲しい。」

片膝を付き、もう一度手を差し伸べる。
すると今度はゆっくりと手を重ねてくれた。

もう片方の腕に、何かを大切そうに抱えていたけれど今はそれを追及するより先に彼女と話す場所を設けなければならなかった。
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