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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で



ここ、カルヴァン王国では全ての貴族が魔力を持って生まれ、少しずつ市民の中にもその力が広がっている。

魔力を持って産まれた者は決まって国の教育を受けたら後、ヴェルツゥヌに一つだけ存在する魔法学校へと進学させられる。
これは持って産まれた力を正しく扱わねば危険を脅かす存在になってしまうからだ。

大陸の北東部に位置する内海の中に浮かぶ島、ネルヘンスの島そのものがコーニンクライク魔法学校である。

元より古来災いを呼んだ乙女の亡骸を封印する為にカルヴァン王国を筆頭に作られた塔を守る為の組織であったが、それがそのまま魔術師を育成する場として使われたのが始まりだ。

コーニンクライク魔法学校は初代理事長ヴェルヘルムス・ファン・カルヴァンにより設立され、ヴェルツゥヌの四国……ウィットランド帝国、カルヴァン王国、ジュズドボーヴェン公国、ザユド連邦の魔力を持つ者は全てこの学校への入学を強制される。

そこで、才能を見抜かれた者だけが洗礼を受け、受け入れられたなら黒魔術の力を得る事が出来る。
勿論、体が耐えきれずに命を落とす者も少なくはない。

要するに、選ばれた者達なのだ、黒魔術師は。
しかしそれ故に人々から恐れられてしまうのも確かなのだから。



ハイデスが夜の街を駆ける馬車から外を見るも、いつもと変わらない景色であった。
長旅で疲れた身体は早く休みたいと訴える。

馬車の中で堅苦しい甲冑を脱ぎ捨てると予め用意されている背広へ袖を通し、軽い身支度を整えた。
こんなもの、屋敷に付けばすぐにまた脱ぐ事になるのだが致し方ない。
家主が情けない姿で家に入るところを見られては何十年と馬鹿な貴族の酒の糧に成りかねない。

靴紐を縛り終える頃には馬車は屋敷に着く時だった。
脱いだ甲冑を馬車を引いてきたカーターに任せ、足早に屋敷へ向かおうとするが、何やら門の外で揉めている様な話し声がするのに気が付く。
人様の前家ので何事かと、見に行くとハイデスの……クロヴィス家の使用人が二人ほどそこに立っていた。

「……お前達、そんなところで何をしている。」

「っあ、これはこれは旦那様……いやなに、この者が塀の前で蹲っているものですから……。」

「なに?」

また物乞いか何かか……ならば好きなだけ食料を持たせてやればいい。
ハイデスはそう思ったが、その者の姿を見た途端、何とも言えぬ衝動に駆られた。
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