第3章 2 暖かな黒の中で
優男と言えばまだ聞こえがいい。
軟派的だと言われてしまえば言い返せないのがエルメスであり、寧ろご明察とおどけて見せては甘い笑顔を振り撒いて夜を渡るのが彼なのだ。
遊んでるんじゃない、遊ばせて貰ってるんだとふざけたことを言ってひとつ、またひとつと乙女の唇を奪っていく。
それなのに不思議と彼の背中を狙う女がいないことが何よりの彼の凄味だと世の男は口を揃える。
ハイデスという男も整った顔、すらりと伸びた脚と鍛え上げられた身体に一騎士団隊長という肩書きから憧れる女性は少なくない。
黒魔術師に恐れを抱く者は多いが、それ以上に艶のある黒髪の怪しい魅惑に惹き付けられた。
とは言ってもエルメスの様に浮き足立って女を渡り歩くなんて考えもしない男なのだから今まで浮いた話の無い男だった。
それもまた、彼の魅力を引き立てるとは本人は知るよしもない。
彼等黒騎士団は通称シュヴァルツと呼ばれ、聖騎士団とは離れた存在だ。
主に護衛を任される、争いでも無い限り所謂貴族様の名誉職である聖騎士団と違って黒騎士団は血生臭い任務を行う。
今の戦の花形は専ら黒魔術師だ。
黒魔術師無くして国は護れぬと唄われる程ではあるが、その力が人間に定着し初めたのは300年程前のことで、長く生きる魔術師達にとってはまだ馴染みにくいものであった。
「次はいつになりそうだ?」
「いや、奥地の調査は粗方済んだ。後は聖騎士団にやらせても問題ないだろうと陛下には御伝えしたからな。少しは暇を貰えるかもしれない。」
「ははっ!抜かりねぇな、うちの隊長様は。あいつらも少しは働けってんだ。」
「仕方がない、そういう組織だからな……一応シュバリーの隊を推しておいた。彼は努力している。」
「シュバリーか、俺もアイツは好きだぜ。御貴族様ぶってないからな。」
「俺もお前も貴族だぞ。」
「ばーか、洗礼を受けた奴らは別もん、だろ。生きるか死ぬかでここまで来たんだ。」
「……そうだな。」
城の門下まで戻ると迎えの馬車に乗り込む。
エルメスもハイデスも、家紋の施された馬車に乗り込んで帰路につく。