第3章 2 暖かな黒の中で
「はは、お前は首を跳ばされたくらいで消えるタマじゃねぇよ。」
「そういうことを言ってるんじゃない。」
相変わらず軽い口調で話す男、エルメスも同じ甲冑にマントを身に付けている。
騎士団は目立つ存在だが、彼等黒騎士団はその中でもやはり異様である。
早足で城の長い廊下を進む二人から隠れる者すら存在する。
「いっそここ辞めてセンセーの所にでも行くか?」
「……お前一人で送り込んでやろうか?きっと丁重に可愛がって下さるぞ?」
「お、おい冗談だ、それだけは勘弁してくれ……。」
冗談を交わす二人の表情が明るかろうが、エルメスがその甘い顔で人懐っこい笑顔を見せようが関係無い。
その甲冑の黒さが人々を怯えさせる。
異質な程に黒いのではない。
この世界では黒という色そのものが異質なのだ。
闇の色、悪魔の色と言われる黒は本来魔物の色であった。
魔物によって毒されたモノが、黒く染まる。
だから力の無いものは夜を恐れ、暗闇を恐れた。
それを生身の人間が身に纏うのだから、人々は恐れるのだ。
逆に生命エネルギーを意味するのが白であり、無機質なものでない限り生きているものが白いことはほぼあり得ない事であり、同時にその姿が白に近い程力の強さを示していた。
それが人間は髪に現れる。
但し、例外なのがやはり黒魔術師であり、ハイデス達黒騎士団達が代表だろう。
「にしても、お前は何時までもそんな頭でいるのか?副隊長は黒魔術を使えないのではと噂されてるぞ。」
「いいんだよ、俺はこれで。コレが元の色だしな……何より、似合わないんだって。黒髪じゃ女の子に怖がられるしさぁ。」
「全く……公式の場所では戻せよ。」
淡い栗色の髪を指先で触るエルメスにハイデスは溜め息を吐く。
エルメスの様に己の力で色を変えてしまうものも存在するが、かなり高度な技術を要する為に長時間そのまま過ごす事の出来る人間は希だ。
そんな燃費の悪い事をするだけ無駄だと取るか、類いまれなる才能を持った者だけが楽しむことの出来る特権だと思うかは人それぞれである。
少なくとも、そういった事を楽しめるのがエルメスという男の長所である事は確かだ。