第3章 2 暖かな黒の中で
予想通り見付けることの出来なかった天女の報告を陛下の元へ伝え、待たせておいたエルメスの元へ向かう。
擦れ違う者達が男を避け、頭を垂れる姿をその切れ長の目で見ながら急いで目的の場所へと向かう。
その姿は艶やかな城の中でも余り異質で人の視線を集めた。
真っ黒の甲冑に、同じ様に真っ黒のマントは内側だけ鮮やかな赤で歩く度に靡いて威圧感を与える。
騎士団の隊長ともなるとそれなりの地位ではあるのだなら仕方無いと言えば仕方が無いのだろう。
だが、無闇矢鱈に装飾を増やすのは遠慮して貰いたいと思うのが実際に身に付ける側の思いであるが騎士とは国の盾となり剣となって人々を守らねばならないのだ。名誉ある立場の者は人々の憧れの対象であると同時に偶像化される必要がある。
これも国の為、民の為だ。
しかし、だからといって甲冑もこれ見よがしに装飾華美な上に魔石まで埋め込まれ、おまけに全身黒ずくめときたもんだ。
ここまでの黒を保つなんて己が黒魔術師だと公言している様なものだ。しかし、正しくその通りなのだから文句の付けようもない。
髪が黒いから隠しようもないが、男はどうにも黒魔術師に対する世間の怯えるような視線が苦手だった。
本来、人間が取り込める力ではない、寧ろ害となる古来から成る魔力を扱う人間が黒魔術師だ。
単なる魔術ならば、簡単に言うと火を扱う、水を操る、稲妻を起こす等武力面で例えるならばそれらを意味する。
代わって黒魔術というのはハッキリとした住み分けが存在しない。ただ、全ての魔術を扱えると同時にそれらを古来の魔力で発生させる事によって生命に致命的なダメージを与える。
よって、その魔力により産み出された炎は例えマッチ一本程のものであれ、たちまち死へと追いやる事が出来る。
殺戮部隊、とは言われたものだと男は溜め息をついた。
「お、ハデス!遅いじゃないか、俺に何時まで見世物小屋やらせるつもりだ?」
「口が悪いぞ、エルメス。それにまだ城内だ、ハイデス隊長と呼べといつも言っているだろうが。」
「はいはい。で、ハイデス隊長、陛下の御機嫌は如何でしたか?」
「麗しくは無い、がまぁ想定の範囲内だろう。渋い顔をしておられたが、特にお咎め無くだ。」
「当たり前だよなぁ……こんなんで始末書案件なんてストだスト。」
「止めてくれ、副隊長のお前にそんなことされたら俺の首が跳ね兼ねない。」