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私を愛したモノなど

第3章 2 暖かな黒の中で



薄暗い森の中を騎馬が駆けていった。
ザワザワと怪しく揺れる木々からは魔物達が息を潜める。

しかし何かを探すように騎士達は華麗に森の中を抜けていく。
森から森へ、集落から集落へと辺鄙な田舎道を走る鎧姿の騎士達はこの暗闇の中で無ければ相当目立ってしまうだろう。
けれど野獣でもなければその姿を追うことは難しい。

それ程までに深い闇に覆われた森であった。


「……見付かったか?」

「いや、痕跡ひとつ見付からない。他の隊もそうだ。」

深い森の中、2つの隊が落ち合った。
馬から降りた男が顔を合わせるも、一言二言交わしすぐに背を向けた。
互いに指揮を取るとすぐ隊の中へ戻って行く。

隊長、と呼ばれる者に一人の男が駆け寄った。

「どうだって?」

「駄目だ。何も手掛かりが無い……何故だ?これではザユドに先を越されてしまう……。」

「目撃証言も無ければ石の反応すら無いんだ。本当に天女は召喚されたのか?」

「分からない。しかし、ザユドがかの場所で天使を降ろし召喚の儀を行ったのは確かなんだ。……幾ら天使であれ、応えた人間に与えないなんて事は今だ嘗て無かった。」

「でも、天使だぞ?あいつら俺ら人間を喰い物としか見ちゃいねぇ。騙してるんだよ、全部。」

「馬鹿言え、だとしたら何でザユドはあそこまで血眼になって探しているというんだ?居る筈だ、このヴェルツゥヌの何処かに。見付かってないだけだ。」

「そんな天女つったって何千年前の話だ?あんなのお伽噺に決まってる。」

「現実から眼を背けるな、エルメス。お前の言う通り、天女はお伽噺で天使の悪戯ならそれに越したことはない。だが、もしこのままザユドに天女が渡り歴史通り宝玉が生まれてみろ。奴らは宝玉の力を独占するどころか、世界が滅びかねない。」

「、そんな事解ってるが……この広いヴェルツゥヌでどうやって見ず知らずの女を一人探すってんだ……早くしねぇと幾ら天女でもくたばるぞ。」

罰が悪そうに唇を噛むのはエルメスと呼ばれた栗色の髪の青年だ。
真剣味を帯びつつも、かなり砕けた調子で話す事から親しい間柄だということが解る。

はぁ、と溜め息を吐くのは一際派手なマントを翻す、いかにも隊長様と言いたげな男であったが高圧的なオーラはその鎧衣装のせいだと思われる。
黒髪をサイドに上げた、爽やかな青年は一部隊を率いるには余りに若く見えた。
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