第5章 闇夜の調べ
「素敵な場所ですね。連れてきてくれてありがとうございます。」
「いえ、寧ろ気に入ってくれて良かった。城を歩いていた時に、こういう場所もお好きかと思いましてね。」
「あと、今朝のことですが、申し訳ありませんでした……私が居れば止めたんですがねぇ。あの馬鹿が……」
「えっと、!そ、そのこと、は……」
どうしてルシスさんが謝るのだとか、改めてその話題を振ってこられると思わなかったとか、出来るなら忘れて欲しいだとか色んな気持ちが私の中を一瞬で駆け巡った。
そんな、しどろもどろになった私に上手い返しなんて出てくる筈がなかった。
「フフ、言われたく無かったという顔ですね。ですが黙っている訳にもいきませんので……ですが、そうですね。まず、人の屋敷でおいたをする悪餓鬼は家に帰らせましたのでご安心下さい。」
「えっと、……は、ハイデスさん?は、屋敷に戻ったんですか?」
「ええ、ジェイドに迎えに来させました。そもそも、ハイデス自身もそんなことが出来る状態では無い筈だったのですがねぇ。全くもって呆れます……それに、」
悪餓鬼、と言ったのが一瞬聞き間違いかと思ったが、ほんの少し怒ったようににっこり笑うルシスさんがいた。あ、さっきのは聞き間違いでは無かったんだなと、それを見て思いながらも、気が付けば何だか私が尋問を受けているような気持ちにならなくもない。そんな今の状況に相変わらずハラハラしてしまう。
「そ、それに……?」
「純粋に、気に食わないのですよ。人の屋敷で……貴女に勝手に手を出すだなんて。」
はぁ、と溜め息をついたかと思えば私は気が付けばルシスさんの膝の上に乗せられていた。
「わ、ルシスさん…?、」
「アンリ、嫌なら嫌だと言わなくては……騙されて食い散らかされてしまいますよと、昨夜言ったばかりでしょう。」
「えぇっと……は、ハイデスさんにそんなことされるなんて思ってもなくて…そ、それに、まだ辛そうで、そうすれば治るのかなって、思っちゃって…。」
「強ち間違ってはいない部分もありますが、それも一時的なものです。あれは今、所謂魔力酔いのようなものなのですよ。」