第5章 闇夜の調べ
冬の空気は好きだった。
風が清んでいて、ほんの少しもの悲しいような、肌を撫でる風のその冷たさが、何となく好きだった。
「……寒くはありませんか?今日は風が冷たいですからね。」
ザアと、少し強めの風が吹いた後、心配してくれたルシスさんが声をかけてくれる。
「いえ、大丈夫です。私、わりと好きなんです、外の風に当たるのが……。」
「おや、そうですか……フフ、残念ですねぇ、いい口実になるかと思ったのですが。」
悪戯っぽく笑ったルシスさんに、どういうことだろう?と首を傾げるも、すぐ目の前に現れた光景に、目を奪われる。
「着きましたよ。足元が悪くなるので、気を付けて……」
歩いてきた小道が開けた先に、大きな湖が広がっていた。空の色を反射して湖とは思えないくらい綺麗な色をしていた。
少し歪んだ石畳をゆっくりと降りていくと、その光景が視界いっぱいに広がっていく。
カサカサと風に揺れて乾いた落ち葉は赤や黄色に染まっていて、その鮮やかな色を風に乗せて空を舞った。
「わぁ、綺麗……。」
「フフフ、そう言って頂けて何より……さぁ、少し先にベンチがありますので、そこで少し座りますか。」
手を引かれ、相変わらず無駄のないエスコートに少しドキドキしながら私はベンチに腰を下ろした。
「風が強いですね……少し弱めましょうか。」
「え……?あ、このままで大丈夫です。ありがとうございます。」
一瞬何のことかと思ったが、そうか、魔法というものは自然現象すら操れるのかと思って感心した。この景色も全部ルシスさんが作ったのかなぁなんて思っては目の前の広大な景色に思わず目をやった。
「そうですか……寒くなったら何時でも仰ってくださいね。」
隣に腰かけたルシスさんはそう言って穏やかに笑いながら、私の膝に落ちた枯れ葉を取ってくれた。