第5章 闇夜の調べ
何でそうしたかだなんて、はっきりとは分からない。でも、今確かにハイデスさんを抱き締めたいと思った。口付けたいと思った。
見えない何かに怯えるようなその姿に、大丈夫だと、そう伝えたかった。
「、アンリ……っ、」
一瞬だけ離れた時、確かにハイデスさんと目が合った。しかし、すぐに抱き締められた私は、同時に深く激しい口付けを受ける。
私の中へと割って入る舌が驚くくらいに熱くて、覆い被さられるような体勢は、ハイデスさんの逞しい手によって支えられていた。
「ん、っふ……、」
咥内をまさぐるそれが私の意識を奪うようで、私は必死にハイデスさんにしがみ付いていた。
歯列をなぞり、深く絡められる舌に何とか応えようとする。でも、受け止めるだけで精一杯な私は、これがハイデスさんの苦しみを癒す術になるのかだなんて分からなかった。ただ、その思いを、少しでも受け止められたならという思いだけであった。
離れた口元から細い銀糸が渡ってはプツンと切れた。
相変わらず、ハイデスさんは苦しそうに笑っていた。
「……、君は、本当に……これ以上私をどうしようというのだろうね。」
息を整えようとしていれば、気が付いたら抱き上げられて、柔らかなベッドの上にいた。ハイデスさんが私に迫るように体重をかけると、ギシリとベッドのスプリングが鳴る。窓からは少し高くなってきた、初冬の白い日差しが薄いレースのカーテン越しに差し込んでいた。
「ねぇ、アンリ……私は、君を傷つけたくない。」
「ハイデスさん……大丈夫ですよ、私。」
根拠も何も無いことなんて分かっていた。でも、私は今のハイデスさんを一人になんて出来ない。そして、これからの時間が、少しでもハイデスさんを楽にすることが出来るのであれば、私はその苦しみを受け止めたいと思った。