第5章 闇夜の調べ
「いや、その……ここ最近、ずっとハイデスさんとちゃんと話せてなかったから、気になってて。声もかけずに、ルシスさんのところに来ちゃったし……だから、その、……会いたかった、です。」
気が付けばそんな思いを私は口にしていた。目の前には、驚いたような、悲しそうな顔をしたハイデスさんがそこにいる。あぁ、困らせてしまった。でもそれ以上に、この気持ちを上手く誤魔化すように続けられる言葉を、私は持っていなかった。
「、ごめんなさい……。」
そして同時に、こんな、自分の気持ちだけを押し付けて、なんて我が儘なんだと我ながら悔いた。お見舞いに来たにも拘わらず、何を言っているんだと思った。私はいたたまれずに背を向けて部屋を出ようとしたら、ガタッと焦って立ち上がるような音が背後で聞こえた。
振り替えると、辛そうな顔をしたハイデスがいて、その大きな手が私の手を掴んでいた。
「っ、…私もだ、私もだよ……アンリ。」
「ハイデス、さん…。」
その時、コンコンコン、とこの静かな部屋にノックの音が響いた。
「隊長……すんません、今、よろしいでしょうか?」
ヨアヒムさんの声だった。
ハイデスさんは、それに答えようとしない。
私はどうすればいいか分からず、ハイデスさんを見る。でも、その漆黒の瞳があまりにも真っすぐに私のことを見詰めているものだから、耐えきれずに下を向いてしまった。
ドキドキという鼓動が、この静かな部屋に響いてしまいそうだとも思った。
そんな恥ずかしさと緊張とに耐える様に、私とハイデスさんは立ち尽くす。少しして、足音が離れていくのが聞こえた。