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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ



「ここだ。きっと今頃ヨアヒムが様子を見終わった頃だろうから、良いタイミングだろう。俺たちはハイデスを残してもうすぐ城へ戻っちまうから、悪いがアンリちゃん、アイツのこと見てやっててくれ。」

控えめにノックをしたが、すぐに中から返事が返ってくる。どうやらエルメスさんの言う通りヨアヒムさんと話をしているようだった。

「はーい、開いてますよ、と。……よし、これでだいぶ良くなりました。あと一歩で完全にオーバーマギーでしたよ。そうなりゃ直すのに相当手間ですから、ほんと、気ぃつけてくださいね。」

「悪い。助かった。……アンリ、来てくれたんだね。」

返事を聞いて、ゆっくりと扉を開く。すぐに目が合ったハイデスさんが私を見て笑うのに、何だかとても安心した。ベッドからわざわざ降りようとするから、私はそのままでと伝えれば、ハイデスさんはまた申し訳なさそうに笑った。

「おはようございます、ハイデスさん……あの、体調悪いって聞いて……。」

「すまない、心配させたね。大したことはないよ。心配させてすまなかった。」

「……では、俺はこの辺で失礼いたしますよ、隊長殿。」

「ああ、すまないな、助かった。」

きっと気を聞かせてくれたであろうヨアヒムさんが挨拶もそこそこに部屋から出ていった。
しんとした空気の中、ちょっとだけ緊張しながらもこうして二人で話せることに嬉しくも感じる。

「あの、ハイデスさん……、昨日は、ゆっくり話も出来なくて、すみませんでした。」

「どうして君が謝るんだい?それは私の台詞だよ、アンリ。」

相変わらず、優しそうに笑うハイデスさんだが、やはりどこか苦しそうな様子は変わらなかった。あんまり長居しては負担になるかもしれないと思いつつ、こうして落ち着いて話せる時間が嬉しい。ハイデスさんを前に、さっきのカールさんたちの会話を思い出す。私は、ハイデスさんの顔が見たかった、声が聞きたかったのだと改めて感じた。
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