第5章 闇夜の調べ
「あ!!エルメス副長!何アンリちゃんに色目使ってんすか?!人には散々駄目だ何だと言っておいたくせに、朝から堂々と抜け駆けっすか?!そんなの流石の俺も許さないっすからね?!」
「ばか、ちげぇよ……普通に目が合ったら笑いかけるくらいなんてこたぁねぇだろうが。」
「いいや、そんなことないっすからね!?アンタ、一体その理屈で何人の女の子落としてきたっていうんすか?!この前だって俺が狙ってた子が気が付いたら副長の魔の手に掛かってて……俺は、俺は……、!!」
わっと嘆くような声を上げたカールさんには悪いが、その話の内容に思わず吹き出しそうになる。確かに、さっきのエルメスさんの笑顔は本当に柔らかくて、しかもこっちの心境を察してさり気無く向けられたそれに勘違いしてしまう女の子は多いだろう。例えそういう関係でなくとも、側にいて向けられる視線のこの心地よさは流石にずるいと私も思う。
「おいおい、アンリちゃんの前でその話はよしてくれ……いやぁ、でもまぁ、悪かったよ。お前が狙ってた子だなんて知らなかったんだ。」
「やめて欲しいのはこっちの台詞っすからね?!もうこれで何度目だと思ってるんすか?!とにかく!!アンリちゃん、この男だけはぜっったいに惚れちゃだめっすからね?!絶対ですよ?!」
かなり真剣な表情で迫るカールさんに、ちょっと気押されつつも流れで頷いてしまう。
カールさんには悪いが、あまりにも面白すぎて、傍にいるジェーンさんですら笑っている。
「カール、お前はいい加減諦めろ。エルメス副長にはどうやっても勝てん。それが全てだ。」
食後の珈琲を優雅に飲みながらアリアスさんがふっと鼻で笑いながら言った。