第5章 闇夜の調べ
「おはようございます、アンリ様。今朝の調子はいかがですか?」
「あ、ジェーンさん、おはようございます。おかげ様でゆっくり眠れましたし、元気いっぱいです!」
「……なぁ、アンリちゃん。あの後モルゲン導師にどこ連れてかれたんだ?」
ジェーンさんに笑って答えていれば、エルメスさんがどこか心配そうに聞いてきた。
「えっ……と、お城の、バルコニー……、?」
「あ、城の中にはいたんだな。いや、朝まで一切気配消されてたみてぇだったから、どうなっちまったかと心配してたんだぜ?」
「気配を?そうだったんですか?すみません……全然分からなかったです…。」
気配、消されてたのか、と今更になって知る事実に、何でルシスさんは私の気配なんて消したんだろうか?確かに、聞かれたくないとは言っていたが、朝までとは随分と厳重だ。昨日の話……私の記憶をルシスさんが消したのだという事は、それほどまでに他の人達に聞かれたくない事なのだろう。
間違っても私の口からいう事のないようにしなければと思っては、相変わらず心配そうに、そしてどこか不思議そうに私を見るエルメスさんに向き合った。
「…ま、まぁ……何にもなかったみてぇだから安心したよ。」
ははは、何てどこか乾いた笑いを浮かべるエルメスさんにきょとんと首をかしげる。なんだろうとジェーンさんを見れば、一瞬たじろいだ後に顔を赤くされた。変な事でもあったのかと聞けばそんなことは無かったと首を振って否定される。
「、や、その……わたくしは、お恥ずかしいことにアンリ様退室時の記憶が曖昧でして……」
え、そうだったのか。退室時と言えば、ルシスさんに抱き上げられてそのまま部屋からワープしてしまったのだという事を思い出す。
という事は皆あれ見られてたんだよな、と今更ながら気が付いては急に恥ずかしくなる。