第5章 闇夜の調べ
「クソッ!!ルシスのやつ、どこに消えた!どうしていつもいつもアイツの好き勝手にされるんだ!」
ルシスの城の応接間に、ハイデスの叫びが響いた。
「そうは言っても、あのお方にあれだけ言えるのはお前くらいだ。取りあえず、ハイデス落ち着け……あと、ジェーンが完全に使い物にならなくなった。」
落ち着かない様子で悪態を吐くハイデスを、エルメスがやれやれと言った様子で宥めていた。
他のメンバーはというと、やっと体の緊張を解せると肩を回す者、頭を抱えながら今しがた聞かされた話の内容に完全を消化するのに手一杯な者と各々がこの短い時間に溜まったであろう疲労を取り払っていた。
しかし、あまりにも何かしらの衝撃を受けた者の呆けた顔がいくつかあるのも確かであったが、今のハイデスにそんな奴らをフォロー出来るような余裕は欠片もない。
「そんなもん知るか!!」
「隊長、確かに落ち着いた方がいい……そろそろヤバイですぜ。もう、身体限界でしょう?」
ほう、と天井を見上げるだけで呼びかけに答えないジェーンを横目に、怒鳴るハイデスが再び体勢を崩す。はぁ、とため息交じりにも真剣な表情をハイデスに向けたヨアヒムがその体を支え、今度こそその額に手を当てて治療の姿勢に入った。
「くっそ……」
これ以上どうにもならないハイデスが、悔しそうに舌を鳴らす。
ハイデスの状態を探りながら、明らかに眉間の皺が深くなっていくヨアヒムだったが、その訳を深く追求する様子はない。
「なんでこんなことになってんのか、わざわざ聞かねぇですけど……アンタに何かあっちゃ困るんでちゃんと診させて貰いますぜ。その為に俺がいるんですから。」
その隣では事の整理が頭の中である程度出来たらしいアリアスが、相変わらず呆けているジェーンの肩を掴んで揺する。
「ジェーン、ほら、師匠とアンリ嬢が普通じゃない関係ってのは良く良く分かりましたから、いい加減戻ってきてください。意識どこに飛ばしちゃったんですか。」
ぐらぐらと揺れるだけで半開きの口を閉じようともしない彼女にアリアスが頬をぺちぺちと叩くが相も変わらず反応はない。
「っ、アリアス!お前馬鹿なことを言うな!!」
「だから隊長、大人しくしててくださいって……アリアス、お前も変なこと言ってくれんなよ。頼むぜ。」