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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ



私はお願いしますとも、大丈夫だと断ることも言えなくて、ただ真っ赤になった顔を隠すようにルシスさんの腕の中で小さくなるしか出来なかった。

お城の中はとても静かで、ハイデスさん達もどこかにいるのだなんて全く分からないくらいに、静かだった。
私に当てられた部屋に着くと、そのまま静かにベッドへ下ろされた。縁に腰掛ける体勢だが、なんだか緊張してしまう。

ちらと見たルシスさんはそんな私の視線に気が付くと、クスリと笑って隣に座った。ギシリと鳴るスプリングと、重さで片寄るベッドのせいで私の肩がルシスさんに触れた。

「……アンリ、」

ルシスさんが、そっと私の髪を耳元にかけた。
ドクドクと心臓が騒いでいる。きっと、それも全部ルシスさんには聞こえているのだろう。その時、ふわりと鼻を擽るその香りに、私は初めてこの人の香りを知った気がした。
頬に触れた手が、擽ったくて、同時にこれ以上ルシスさんと視線を合わせていられそうにない。
そんな私に、ルシスさんは更に距離を詰めようと近付いてくるものだから、緊張のあまり私は少し避けてしまった。
ピタリと、ルシスさんが動きを止めた。無言で私を見るその視線に、思わず俯いてしまう。だって、あまりにも真っ直ぐに私を見るものだから、その視線に耐えきれなかった。
いつも、どこか子供を軽くあしらうように、悪戯に私をからかうようなそれとは違う、その瞳に私の心臓がこれ以上は無理だとルシスさんの前から逃げ出したのだ。

「ご、ごめんなさい……。」

「……いえ、今のは私がいけなかったですね。申し訳ありません。」

ふわりと額に触れた口付けはあまりにも優しくて、そのまま頭を撫でるとルシスさんは小さく微笑んだ。

「今日はゆっくり休んでください。私は明日は少し用がありますので、朝から留守にします。何かあればヴァルターに。」

「あ……分かりました、有難うございます…。」

パタンと静かに閉められた扉を、私は暫く呆けたように眺めながら、いつまでも鳴りやまない鼓動をこのあまりにも静かな部屋でひとり聞いていたのであった。
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