第2章 1 箱庭
自然と目が合った彼を見ると、私の言わんとしていることが分かったのか、あぁ、と声を漏らすと私の頭を撫でた。
「フフ、僕、ちょっと長生きなんだ。……あ、ほら、さっきの子来たよ。」
私は彼の言葉をはっきりと理解するより早く、目の前に現れたドラゴンに意識を持っていかれてしまった。
よく見ると、何かくわえている。
くわえていたものをゆっくりと地面に下ろせば、それがタマゴなのだと分かる。
しかし、そのタマゴは他のものとは違って、輝きが殆ど無かった。
「え、これって……」
弱々しい光を放つそのタマゴを親が切なそうに見る。
セラフィムは少し眉を寄せ、ドラゴンとタマゴを交互に見るだけで何も言わない。
「セラフィム、どうしたらいいの……?」
「……これはね、君にしか出来ないことなんだ。それを、この子は知っている。」
「え?」
真剣な面持ちで、地面に置かれたタマゴをセラフィムが手に取る。
「ユウェルドラークはとても賢い生き物だ。人智を越えたモノを持っているけれど、でも、流石の僕もこれは予想外……アンリ、君の秘密を教えて上げるよ。」
何を、言っているの?
まるで独り言のように話すセラフィムが分からなかった。
私の秘密って、何なの?
何で、貴方が知っているの?
「アンリ、手を出して……この子に触れてあげて。」
分からないけれど、従うしかなかった。
今はただ、この子……タマゴの光を消したくないと、そう思ったから。
ゆっくりと、タマゴに手を触れるが、その後どうしたらいいか分からない。
私は助けを求めるようにセラフィムを見る。
「この子、助けたい?」
「え、……そんな事、出来るの?」
「ああ、君ならね。……ほら、祈って。」
祈って、なんて言われても……
でも、やるしかないのだろう。
この小さな命の光を何としても助けてあげたかった。
すると小さな鼓動を感じる。
本当に、小さな……
セラフィムは私なら出来ると言った。
この世界に来て分からないことばかりで、私は本当にまだ何も知らない。
でも、もし余所者の私にも出来ることがあるなら、手を伸ばしたいと、そう思った。
とくん、とくんと響く小さな小さな命の光に向かって思いを込め、私は目を閉じた。