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私を愛したモノなど

第5章 闇夜の調べ



「だから、本当に悪いところがあるんだとしても、この目で見るまでは、私は信じています。」

「……なるほど。ではひとつお聞きします。……アンリ、貴女のかつての記憶ですが、思い出したいとは思いませんか?」

「記憶、ですか?まぁ、それは……思い出せるのならば思い出したいと、そう思いますけど。」

予想外の問いに、目を丸くする。
何でルシスさんがそんなことを聞くのだろう。しかも、このタイミングでだ。

本当の事を言うと、あんまり考えないようにしていた事だった。勿論、セラフィムと過ごしていたのだと知らされた時は、彼を知るという点において自分の過去に興味を持った。だが、それ以上に私は何となく自分の過去を積極的に取り戻したいとは、思わなかったのだ。

「でも、……実は少し、怖いんですよね。」

「怖い、ですか?」

「はい……なんというか、思い出しちゃいけないような、そんな感覚というか…。」

ルシスさんは、私の中途半端な答えに意外そうな顔をした。そして、少しだけ考える素振りをすると、ゆっくりと私に向き直った。

「なるほど。……その記憶ですがね、貴女から消し去ったのが私だと言ったら、貴女はどう致しますか?」

「、え…?ルシスさんが、私の記憶を…?」

まさかの台詞に、私は言葉を失った。
何者かによって消されただとか、そんなことは聞いていた。誰なんだろう、私にそんなことをする意味が、その人にはあったのだろうかと、そう思っていた。
でも、その誰かが、まさかルシスさんだったなんて思っても見なかった。

「ええ、そうです。」

まっすぐに肯定の言葉を向けるルシスさんに、私だけが動揺を隠せないでいた。
でも、不思議とショックだとか何だとか、マイナスな印象は無くて、この時の私の中にあったのは、ただ驚いたのと、どうしてそうなってしまったのかという疑問だけだった。

「え、えっと……そ、それ、は……、…なんで、そうしたのか……教えて欲しいです。」

「ほう。理由を知りたいと。」
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