第5章 闇夜の調べ
「私と、ですか?」
「えぇ、そうです。今お時間、よろしいですか?」
時間も何も、今日はここに泊まることが決まっている私にとって他に予定なんてものは何一つある筈はないのだが、きっとルシスさんは私に二人で話す事を聞いてくれているのだろう。雰囲気こそ柔らかいのだが、二人きりで、態々こうして聞いてくるという事は、少し畏まった話になるのかもしれない。
そう思うと少しだけ緊張してしまう。でも、私はルシスさんの目を真っすぐに見詰め返して、静かに頷いた。
肩を抱かれ、冷え冷えとした風を浴びながら、隣に立つルシスさんを見上げる。その表情は、もう逆光になってしまって分からなかった。
「それなら良かった……ほら、寒いでしょう。すみませんね…私の屋敷とはいえ、彼らが同じ箱の中にいるとなると、話を聞かれる可能性があるもので。なので、手短に済ませましょう。」
そう言って視線を前へと向けるルシスさんの横顔を見る。
「……アンリ、先程貴女は私を信じると、そう仰りましたが、本当にそう思うのですか?」
深い深い、湖を見詰めているであろうルシスさんから投げかけられた言葉は、静かにこの空気を震わせた。
いつも、私たちの事など赤子の相手でもするかのようなルシスさんが、珍しく喉を詰まらせたらしい、先程の私の言葉。それを、まさかルシスさんの方からこんなにも早く振り返して来るだなんて思ってもなくて、寧ろ私の方が動揺していた。
「、えっと……勿論、本当です。私は、ルシスさんのこと、信じたいんです。沢山良くしてもらいましたし……それに、いまいち、ルシスさんのどこがそんなに悪く言われるのか、分からなくて。」
そう、ハイデスさんが、あんなにもルシスさんのことを信用出来ないという理由が、今の私には分からないのだ。不必要にハイデスさんがそんなことを言うとも思えないので、何かしらの理由があったのかもしれないけれど、それですら教えてはもらえなかった。